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京都地方裁判所 昭和33年(む)16号 判決

被疑者 仁木喜三郎

決  定

(被疑者氏名)(略)

右の者に対する贈賄被疑事件につき、昭和三三年二月八日京都地方裁判所裁判官がなした勾留期間延長の裁判に対し、弁護人前堀政幸から刑事訴訟法第四二九条第一項第二号により、その取消の請求があつたから、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件請求を棄却する。

理由

一、本件請求の要旨

右の者に対する贈賄被疑事件につき、昭和三三年二月八日京都地方裁判所裁判官は右被疑者の勾留期間を更に三日間延長する旨の決定をなしたが、右決定は左記の理由によつて違法であるからその取消を求める。

(一)、右被疑事件の内容は比較的単純であつて、これが捜査には一〇日間の勾留を以て十分である。

(二)、右被疑者は本件被疑事実の外余罪である類似事実についてまで自白しているのであるから、その取調に手間取るわけがない。

(三)、仮りに右被疑者の供述に収賄被疑者の供述と喰違う点があるとしても、事案の真相は心証によつて決すべきものであつて、徒に双方の供述を符合せしめんとして勾留を継続するならば、その勾留は自白強制の手段たるに外ならないものである。

二、当裁判所の判断

よつて原裁判の当否を検討するに、取寄にかかる右被疑者に対する贈賄被疑事件記録によれば、被疑者は昭和三三年一月二八日贈賄被疑事件によつて逮捕状を執行せられ同月三一日引続き勾留処分に付され更に同年二月八日右勾留期間を三日間延長する処分をされたことが明らかである。そして被疑者は逮捕勾留当時本件勾留被疑事実の外に余罪である類似事実をも自白したことは認められるが、事案は所論のように単純なものとは認め難く又被疑者の自白の内容は簡単であつて、必要的共犯者である収賄被疑者和田克衛の自供と必ずしも一致しておらず、従つて以上のような自白の程度を以てしては未だ被疑者に証拠湮滅の虞れなしとは認め難く、検察官としては被疑者に対し更に取調をする外補強証拠の取調を行い自白の真実性を裏付け、事案の真相を明らかにしなければならないものといわなければならない。尤も検察官は右十日の勾留期間内に調書を作成した形跡は認められないが、その間何等本件被疑事件の取調をなさないで放置していたものとは断じ難く、検察官において被疑者の勾留を最早必要なしとして釈放すべきものとせず、更に勾留を継続して被疑者及び補強証拠の取調のため三日間の勾留延長が必要であるとして、これを請求したことに対し裁判官において以上の諸点を考慮してやむを得ない事由あるものと認め、その請求を容れて三日間の勾留期間延長の裁判をなしたことは相当であり、弁護人の本件請求は理由ないものといわなければならない。よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項によつて主文のとおり決定する。

(裁判官 石原武夫 木本繁 立川共生)

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